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日常 〜幸せの青い鳥〜

 先週、会社でこんなやりとりをしました。


 同僚のTさん――鳥中さんとしておきましょう――が、昼休みにこう言い出しました。
「自分が出した消費税増税反対の内閣不信任案に賛成する自民は○○だ!(自主規制、差別用語です)××××だ!」
 何でこの人空気を読まずに政治の話始めているんだろう?と、私を含めた一同は思いました。
 しかし鳥中さんの演説は止まりません。仕方がないので、私はやんわりとこう言いました。

「あ のですね、鳥中さん。頭と喉が痛い人がいらっしゃいます。またクシャミとセキが出る人が、更に頭が痛くてセキが出る人も居たとしましょう。朝起きてそんな 感じであれば、取り敢えず風邪薬を飲みますよね?お三人とも風邪を治したいのだから、同じ薬を飲みます。出来ればお医者様へ行った方がベストではありま しょうが。
「で、政治も同じなんですよ。野党は内閣を打倒したくて不信任案を出しました。風邪を治したいから同じお薬を飲むように、思惑は違えども同じ結果を得ようとした――此所まではご理解頂けますでしょうか?
「不信任の文言がどうであろうと、結局は罷免を求めるのだから結果は一緒では?」

 何か反論をしようとしていたので(面倒になって)鳥中さんの肩を掴み、ゆっくりと諭します。

「幸せの青い鳥、って話ご存じで?チルチルとミチルが青い鳥を手に入れたら幸せになれる、と聞き探しに行くが見つからない。仕方なく家に帰ってきたら青い鳥が既に居た、という童話です。
「人生に於いて青い鳥を探しに行くのも宜しいかと存じます、私は。一度ぐらい自分探しに旅行するのも、自己啓発セミナーに行くのも結構でしょう。
「でもね、鳥中さん。青い鳥の主人公は“幼い子供達”であって、“いい歳をした大人”では御座いません。此の意味、分かりますか?
「じゃあちょっと考えてみましょう。貴方のお父様は、ある日貴方へ向かってこう言いました――『息子よ!青い鳥を探しに行こうぜ!大丈夫、金なら家を売ったし親戚から一杯借りた!仕事も辞めてきたから退職金もある!』と。
「きっと賢い鳥中さんはこう言うでしょう――『青い鳥が見つからなかったら、どうするの?』。すると貴方のお父様は笑うでしょう――『何言っているんだ、見つかるまで探せばいいじゃないか!』」

 鳥中さんを心底気遣うような沈痛な表情を作り、私は穏やかにトドメを刺します。

「大人には、責任があるんですよ。其れは自分達の生活を維持したり、家庭を守ったりしなくてはいけません。無ければ作ればいい、見つかるまで探せばいい、出来るまですればいい、というのは子供の時代、責任が一切無かった幼少時に卒業しなければいけなかったんですね。
「先程風邪薬の例を出しましたが、あれはどうやって作られたかご存じで?迷宮奥深くにあったロゼッタストーンが原料になっている、訳ではありません。
「一 般に現代科学は中世ヨーロッパの錬金術が発端だとされています。が、其れ以外にもウィッカと呼ばれるキリスト教よりも旧い神、ギリシャやシュメールを祖と する神、また精霊・祖霊信仰する人達の薬師の技術、ルネサンス時代に其れらも含めて見直され、科学として体系化されて現代へと至ります。
「東洋へ目を向けてみれば漢方、日本に於いては稲なんかも言えるでしょうね。元々熱帯でしか育たなかったのに、何代も何代も品種改良を繰り返し、寒さにも強く、病気にも強い品種が出来ました。
「何を言いたいのかと言えば、彼らの多くは”青い鳥を探しに行かなかった”んですね。現状を打破する志を持ちながら、地に足をつけて研究し、其の結果を私達は享受しています。
「まぁ其れでも青い鳥探しをするな、とは言いませんし、青い鳥に憑かれた政党を応援する、ってのも選択肢の一つです。選ぶのは貴方の勝手です。けれど“そう言う人”を応援する、って事は貴方もまた同類に見られる事は避けられません。
「そう言えば鳥中さん、二年前は民主党へ入れようって仰ってていましたね。最近は維新の会だとか。其れで?鳥中さんの青い鳥は、いつ見つかるんでしょうか?」


 ……私の説得が悪かったのか、結局最後は怒らせてしまいました。なるべく丁寧に言葉を選んだつもりなのですが、中々上手くは行きませんね。
 やはり人類様に奇蹄類如きが言上仕るのは、立場的に宜しくないのかも知れません。
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