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TPP 考証 〜安全保障と経済的な視点〜

 TPPのお話をさせて頂く筈だったのですが、昨日はいつの間にか農の話になっていました。大事なんですけどね。

 今日は自由化に於ける弊害についてです。

 唐突ですが、お金を出しても買えないものってあると思いますか?
 情、家族、友人知人だったり、あぁ時間もそうでしょうか。人によってはそんなものはない、と断言する方も居るでしょう。

 私の体験から言わせて頂ければ、『緊急時の物資』ですね。具体的には東日本大震災後、役三週間程、『金があっても物がない』状態でした。
 中には被災地から遠く離れた所でも物資の買い占めが起ったとも聞きますし、コンビニに襟を立てて視察に行っただけでの無能な大臣が居たのか居ないとか。まぁ結構大変でした。
(幸いにも暴動が行われませんでしたし)

 何を馬鹿な事を言っているんだ、非常時だから仕方がないだろう、と叱責されるお声が聞こえそうですが、果たしてそうでしょうか?
 実際に被災地には数多くのご支援、また被害の酷い所を優先して物資を融通して頂きました。此の場を借りて協力して下さった方々、全ての国々へ深くお礼を申し上げます。
 ですが――私が問題としているのは、『自国ですら供給不足になっているのに、果たして輸出させるだろうか?』と言う事です。

 もっとはっきり言ってしまえば“自国の民を殺してまで、他国を助けるか?”でしょうか。自国を苦しめてまで他国を援助したという国は、日本の民主党政権が韓国へした例を除き、私は存じ上げません。

 また仮に売って貰ったとしても、其れは限りなく高い買い物となるでしょう。向こうは此方が無いのを知っており、絶対に買わなければいけないのも知っている。加えて下手に安く売れば自国内から突き上げられます。
 どんな下手な商売人でも負けるような取引を、海外の資源メジャー会社(規模・歴史共に世界屈指)にさせられる、と。
しかも“政治的な機関”ではないため、どれだけ政府間の仲が良くとも“政治的な配慮”は受け付けません。
(勿論政界とは繋がりが深いものの、あくまでも民間の一企業ですし)



 次に経済的な面から見ていきましょう。
 一年ぐらい前、某テレビでTPP問題を取り扱っていました。基本的なスタンスは“外国産が増えれば日本の農家も下げざるを得ない。だからTPPはした方が良い”という、中立・公平をかなぐり捨てた内容でした。
(今更驚きはしませんが)

 取り敢えず……基本的な経済の話から。

 “お金は遣っても無くなりません。所有者を変えて別の所へ行くだけ”というのがマクロ経済です。簡単に言えば、ですが。
 例えばAさんがお店でリンゴを100円で買いました。100円はAさんのお財布からは消えますが、お店側にプラスとなります。消えたわけではありません。
 次にお店は仕入れた業者へ代金を払います。100円は品物と引き替えに、問屋さんへ移りました。
 更に問屋さんは農家へ商品を買い付けに行きました。100円は農業をしているBさんの元へやって来ます。
(実際にはJAが此の役割を担っている事が多いです)

 このようにお金は無くなったりしません。血液のように循環しています。
 ちなみに回っている血液の量が多ければ、其れは経済活動が闊達であるという証拠であり、即ち好景気である事を表しています。
 逆に資金の流れが鈍い場合は不景気であり、現在の日本の状況ですね。

 よく『公共事業で経済活性化』というフレーズを耳にしますが、其れは政府がお金を遣う事で全体に流れる資金の総量を多くしよう、と言う目的です。
 ギリシャでは未曾有の不景気が起っていますが、其れは不景気(血流の流れが悪い状態)で、更に血を抜く(政府支出を絞る)ようなものです。結果的に壊死が進み、政府の収入は以前よりも落ち込んでいます。

 さて、お金は無くなりません。しませんが、所有者は変わっていきます。そして其れは国際化が進んだ昨今、海外まで行きます。
 具体的に言えば“海外の農家が日本へ売った金は、何処で誰に使うのか?”ですね。
 まぁ日本製品を買う可能性もゼロではないでしょうが、少なくとも日本の地域に密着した遣い方はされないでしょう。

 農家を営むのも楽ではない、という話をしましたが、実際にも大変です。苗や肥料に各種農薬、耕運機(畑を耕すのに使う機械)や燃料、収穫期には人を雇ったり、大量の支出が必要となります。
 しかし其れら全て“販売する側から見れば収入”です。農家が遣えば遣う程、関係する業種の方は繁盛します。

 しかし海外の農家が利益を得ても、其れら日本の業者へ仕事を頼む事は絶対に無いでしょう。仕事自体は同じであっても、受注するのはアメリカの業者です。

 血液だと今まで通っていた血管が切れ、周囲の組織が壊死していきます。新しい血の流れが出来なければ、只腐るだけの話です。

 また“現在安い”農作物であっても、“未来永劫安い”訳ではありません。先に挙げた不作の時には高くなるでしょうし、日本の農家が減少した後は、ライバルが居なくなるのでは幾らでも値をつり上げられるでしょう。

 まぁはっきり言って、TPPの農作物関連は百害あって一利無いような代物です。尤も朝三暮四――“当面は農作物が安くなる”という目の前に下げられたニンジンを見せられ、賛意する方も居るのでしょうが。
 現実的な想像をしてみると……そうですね。安い農作物が入り、多くの農家は廃業か失業、当然其れらを当てにしていた業者も良くて縮小か廃業でしょう。
 収入を絶たれた元農家からの収入で成り立って居た小売業も廃れます。政府にしても今まで得ていた税収を失い、場合によっては生活保護の急増――と、まぁ夢も希望もない有様ですね。

 ちなみに余談ですが、『駄目だったら止めればいい』という方が必ず居ます。ホジティブなのか、何も考え無しなのかは分かりません。只、私の口から言える事は、“大抵そう言う事を言う方は他人事だから楽に考えて”い居ます。
 もしも当事者の立場、少なくとも他人の痛みが分かる程度の想像力があれば、
『仕事を失うかも知れない選択肢を選べ。俺たち(消費者)が不利益になりそうだったら、また元へ戻れ』
とは言えないでしょう?設備投資や農場の管理等、維持費だって相当掛かるというのに、です。


 何にせよ、“私のような奇蹄類風情が指摘できるような欠陥すら、碌に上げられないマスコミの言い分を鵜呑みにしていいのかどうか”、一度お考え下されば幸いです。

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