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新聞・テレビの凋落 〜メロスを騙したのは誰か?〜

 貴方は太宰治の走れメロスという話をご存じでしょうか?
 恐らく日本国で道徳教育を受ければご存じでない方は少数でしょうが、念のため粗筋をwikiより引用します。70年以上前の物語なので、著作権の保護は適応外ですが。


素 朴な牧人の青年メロスは、人間不信のために多くの人を処刑しているシラクスの暴君ディオニス王の話を聞き、激怒する。そして王の暗殺を決意する。しかし、 あえなく衛兵に捕らえられ、即刻処刑されることになる。メロスは親友のセリヌンティウスを人質として王のもとにとどめおくことを条件に、妹の結婚式に出る ため三日間の猶予を得る。王はメロスを信じておらず、死ぬために再び戻ってくることなどはないと言いのけた。

メ ロスは妹の結婚式からの帰途で、川の氾濫による橋の決壊や山賊の襲来(ただし山賊の襲来は、王の差し向けた刺客という可能性もある)など度重なる不運に出 遭う。メロスはそのために心身ともに困憊し、一度は王のもとに戻ることをあきらめかけた。しかしその時、近くの岩の隙間から湧き出てきた水を飲み、疲労回 復とともにわずかながら義務遂行の希望が生まれ、再び走り出す。人間不信の王を見返すために、自分を信じて疑わない友人の命を救うために、そして自分の命 を捧げるために。

こうしてメロスは日暮れに町へ到着し、約束を果たす。そして王の気持ちを変えることに成功したのである。
(引用終了)


 太宰治の走れメロスの冒頭には以下のような一節があります。

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
メロスには政治が分からぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らして来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
(太宰治『走れメロス』より)

 成程、“メロスは悪政を行う国王を排除するため、殺人を以て行おうとした”と。手段自体は真っ当なものではありませんが、まぁ共感される方も居るでしょう。
 ですが、此の文を良く読み、考えてみて下さい。

メロスには政治が分からぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らして来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 羊と遊ぶ云々は比喩なので省くとしても、『政治が分からぬ。けれども邪悪に対しては敏感であった』と文言は矛盾していませんか?
 例えば王が不信を理由に処刑を繰り返していたとしましょう。しかし其れは本当に不当な行為であったのでしょうか?メロスのように殺人を企てた者への処罰ではなかったのか?
 また“政治が分からない”のも問題です。メロスが牧人として生計を立てていられる程度には経済は安定していた。つまり王は経済的に有能な(少なくとも悪政を布いていたわけでは無い)人物であった事が伺えます。
 加えて理不尽な政策を繰り返していれば、庶民からのクーデターや諸侯の反乱、果ては外国からの侵攻を招きますが、そんな様子もありません。

 では何故“メロスは王を邪悪だと判断した”のでしょうか?政治も分からず、しかし善悪には聡い人物を、暗殺未遂へ駆り立てたのは一体誰――?


 ……まぁギリシャ神話をベースにシラー(ドイツの詩人、ゲーテの親友)が書いた詩を、更に太宰が(一説には自らの弁解のため)書いた物語なので、あまり野暮な事を言うのは筋違いでしょう。
 ですが私がメロスを取り上げたのは、「特定の世代の方は、メロスに似ているな」と思ったためです。具体的には新聞やテレビを盲信されている層、団塊の世代を呼ばれる方たちです。

 何度か政治の話をさせて頂く機会を持てたのですが、基本的にメロスと同じ事を言っています。
後期高齢者保険制度が、消えた年金が、国の借金が、赤字国債が、と。まぁ言いたい事は理解出来ます。従って私も可能な限り丁寧に、

「後期高齢者医療制度は、最も医療費がかかる世代を区切り、他の世代まで負担が回らないようにしている制度です」
「消えた年金は民主党と旧社会党の政治母体である自治労という公務員の労働組合が、勝手に定めた内規が原因です」
「国の借金は“国民”が政府“へ”貸しているお金であり、国民の預金なんですよ」
「テフレ時、つまり民間需要が無い時に国以外の誰がお金を遣うのですか?」

等々。ですが、先様は個別の案件には理解を示しても、最終的には以下のような結論へと達します。

『自民党が悪い!自民党は許されるべきではない!』

 ……いや別に良いんですよ?どなたがどんな思想を持とうとも、日本では許されるのですから。どんな偏見であっても他者へ口に出したり、実行しない限りは罰せられませんし。

 只、ですよ。もしも私のHPをご覧頂きながら、今日の日本の混迷が自民党及び政府側の原因だとお考えの方が居るのであれば、一度立ち止まって良く思い返して下さい。
 貴方の其の考えは、一体“誰”によって植え付けられた思想でしょうか?
 メロスを騙したのは“誰” か?


 少し前の朝日新聞の社説には以下のような主旨の言葉がありました。

『民主党に政経交代が決まったものの、マニフェストは財源や実現性に乏しく、私達は裏切られた』

 まるで他人事のように言っていますが、実際に“マニフェストが実現出来るかどうかを確かめるのは、報道局の仕事”ではないでしょうか?
 自称ジャーナリストを数百人規模で抱え、多くの社会・経済学を学んだ者が籍を置く報道側の人間が、言うのは“裏切られた”ですか。随分とまた軽い言葉ですね。
 つまり“日本のマスコミは常日頃から政策・政局を追っているにも関わらず、一野党が出した公約の真贋すら判別出来ない程度の能力”だと言う事です。
 私に言わせれば“新聞とテレビは民主党と一緒に国民へ嘘を吐いていた共犯者”以外にはありませんが。


 メロスの話へ戻ります。物語を日本へ当て嵌めるとこんな感じでしょうか。

メロス……日本国民
王……自民党
メロスへ王の悪行を伝えた人物……新聞・テレビ

 物語とは違い、メロスは見事王の暗殺に成功し、新たな王が玉座へ着きました。着きましたが――其れで?此の3年3ヶ月、以前の王と比べ、何か良い事がありましたか?何一つでも具体的に、以前よりも改善された点はあったでしょうか?もしあるならば、其の一点と改悪された点を比べ、どちらが良かったのか考えて見て下さい。
 其れでもまだ王が変わって良かった、ですか?少なくとも参議院選挙や統一地方選挙の結果を見るに、多くのメロスはそう考えては居ないようですが。

 しかも何の質が悪いかと言えば、メロスの友人は今も尚「維新という王ならば善政を布いてくれるよ」と囁いて居る事でしょうか。物語の中ではメロスは暗殺者として処刑されそうになったように、私達日本国民も国力と信用の大幅低下で、国際競争力を失いました。

 さて、次のメロスはどうするでしょうね?


 私のような若輩者である愚犀が、所謂団塊世代と呼ばれる社会的立場・信用に加え、実際に日本を担って来られた方々へ言上仕るのも、正直心苦しいのですが――私を信用しろ、とは言いません。所詮は万夫愚犀の身、有り触れたネットの一HPにしか過ぎませんので。
 ですが“新聞やテレビを盲信しすぎるのも危うい”と申したく存じます。枚挙に暇がない程、彼らは利己主義・利潤主義のたかが一企業なのも事実であり、実際に彼らが公平・公正な報道を怠ったがため、メロスは王を殺めてしまったのですから。

 何度でも繰り返しますが、“誤った情報を基に誤った答えを出す”とすれば、其れは回答者に落ち度はありません。全ては出題者に責任が問われるでしょう。
 ですから“貴方が過去誤っていたとしても、其れが日本のマスコミがもたらした悪意や差別に溢れる情報しか無ければ、貴方に責任は無い”のです。
(詐欺と同じです。詐欺師は犯罪者で騙された方は被害者です)


 余談ですが実は此所だけの話、メロスの物語は未だ続いているんですよ。簡単に粗筋だけ載せましょうか。


 メロスは王殺しとして疎んじられ、新しい王の無策によって牧人の仕事を失い、職を探して街を徘徊していました。
 すると其処にはメロスへ暗殺を唆した人間は今も変わらず安穏と暮らし、他の人間へまた同じように邪悪を殺せと囁いている所へ出くわします。
 メロスが激昴して彼を締め上げると、彼は悪びれもせずにこう言いました。

『俺は嘘を吐いていない。あの段階では邪悪だと思っていた。お前さんには信じる自由と信じない自由があったんだ、信じたのは誰だい?』

 反論出来ないままメロスがその場を後にしました。暫く歩いていると町外れにある墓の前で、女と子供が泣いていました。メロスはどうしたのか、と尋ねます。

『私の夫は善良な人間でした。法も犯さず、殆どの人間を安寧に暮らせていました。だのにある日、殺されてしまったのです』

 善良なメロスは憤りました。殺された夫の敵を撃とうと女へ重ねて問います。

『国民の前で酩酊したから、そして漢字の読み間違いがあったから、顔へ絆創膏を貼っていたから――そう言って私の夫を殺したのは、メロスと言う名の無知な男です』


 ……メロス異聞と称してショートストーリー一本書くのも面白いかも知れません。まぁ師走も近づいて忙しい昨今、確実に上司に叱られるでしょうが。

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