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アルジェリアのプラント占拠事件の背景を考える

 〜日本のマスコミの分析能力〜

 2013年1月半ば、アルジェリアにあるプラント施設をテロリストが襲撃し、日本人10を含む多数の死傷者が出ました。亡くなられた方には深い哀悼を捧げると共に、私は一人の人間としてテロを絶対に容認しないと此所に誓います。
 何であれ誰であろうが、暴力で物事を解決しようとする人間は容認出来ない上、ましてや其の対象が丸腰の人間、其れも非武装地帯の民間人を対象にした時点で、どんな綺麗事を宣っていたとしても、寝言以外の何物でもありません。


 今回の事件の背景を探る前に、アルジェリアとフランスの関係を簡単におさらいしましょう。
 まぁ簡単に言ってしまえば、アルジェリアはフランスの植民地でした。其の関係は第二次世界大戦後まで続き、民族独立運動が高まって独立戦争を起こした後、独立へ至りました。
(※フランスがドイツに進駐・占領されていたのに、どうやって植民地経営を続けてきたのでしょうね?少し考えれば分かる事ですが、詳しくはご自分でお調べ下さい)

 当時の民族解放戦線(FLN)を指揮していたベン=ベラ氏が大統領になり、社会主義国となりました。しかしクーデターであっさり転覆します。
 其の後もFLNの単独政権が続いたのですが、オイルショックや国政の失敗につき、イスラム救国戦線(原理主義者ではありません)が台頭しました。
 選挙に於いても8割以上の議席を獲得したのですが、其れに反発した軍部が介入し、テロが頻発する事態となってしまいました。
 で、アルジェリアの南側に位置するマリ共和国(フランス植民地時代はスーダンと呼ばれていました)へ現在フランスは軍事介入している最中。
 そしてマリからアルジェリアへテロリストが移動し、現地のテロ組織と呼応した上でテロを起こした――と言うのが簡単な流れです。

 私は中の人ではないため、呼応や合流した云々は推測で書いています。
 ですかまぁ、何重にも渡る検問やセキュリティを難なく突破している事から、内部や現地の人間の手引き無しでは不可能だったでしょう。其の件に関しては断言しても良いと思います。

 さて、今回のテロ事件に関して、私はどうにも腑に落ちない点がありました。
 其れは“どうして日本人が人質になり得なかったのか?”と言う点です。テロリストが事故や偶然で日本人を手に掛けたのではなく、むしろ意図的にしていた、と言う検死結果が出て来ています。
 事件を鑑みるに現地の人間は必要不可欠です。しかし彼らに日本人が嫌われていた、と言う情報はありませんし、また逆に人一倍恨みを買っている欧米人(イギリスとフランス)は人質として生かされていました
(全てではありませんが、少なくとも人質にして交渉に当たるぐらいの腹積もりはあったのでしょう)
 にも関わらず、日本人は人質になりえないどころか、“使えない”と判断されていたかのようです。

 では以下の記事をご覧下さい。かれこれ4年程前の記事になります。


アルジェリアのテロ組織が中国人へ報復を宣告(2009-0714)
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090714/chn0907141249003-n1.htm
 中国新疆ウイグル自治区の暴動でウイグル族が多数死亡したことを受け、国際テロ組織アルカイダと関係のあるグループが、北アフリカで働く中国人らを対象に「報復」を宣言したと14日付の香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストなどが報じた。
 専門家は、アルカイダ系のテロ組織が直接中国を脅かすのは初めてと指摘している。新疆ウイグル自治区の独立を求める組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」はアルカイダと関係が深いとされる。
 英国の民間情報会社「スターリング・アシント」のリポートによると、報復を呼び掛けたのはアルジェリアを拠点に活動し、アルカイダに忠誠を誓う「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」。アルジェリアで働く約5万人の中国人と、中国が北アフリカで展開するプロジェクトを標的にすると警告したという。
(以下略)


 成程、中国がウイグル地区でやっている民族浄化、暴動鎮圧の名目でしている弾圧へ対し、アルジェリアのテログループは声明を発表していた、と。
 何となく見えて来たと思いますが、此だけではありません。


アルジェリア 雇用悪化で乱闘 中国人労働者への不満増大(2009-0808)
http://www.business-i.jp/news/special-page/oxford/200908080003o.nwc
 4日、アルジェリアの首都アルジェの中国人街で地元住民と中国人労働者計100人超による乱闘が起こった。アルジェリアでは30歳未満の成人のうち7割が失業状態にあるなか、中国政府が出資する建設事業に数千人の中国人労働者が雇用されている状態に地元住民の不満が募っており、些細(ささい)な言い争いが暴力に発展した。
 今回の事件は南アフリカ、ザンビア、ナイジェリアなどアフリカ大陸全域で起きた一連の暴動に続くもので、いずれも地元住民による中国人労働者への反感が背景にある。中国政府がアフリカ諸国との経済関係を強化するなか、アフリカ大陸の中国人労働者は現在、推計で75万〜100万人に上っている。
 中国企業が従業員に過酷な労働を求めるといわれるなか、中国人労働者は低賃金でそうした労働に就くことが多い。
 また、中国人が現地の人々や慣習に敬意を払わないとされることも、事態の悪化を招いている。相手国との関係維持は中国政府にとって頭痛の種になりつつある。
 中国人労働者の増加に伴い、今後も問題は大きくなるだろう。
(引用終了)


 日本のマスコミでは一切報道しませんでしたが、中国が国策として推し進めるエネルギー確保、其れは資源国との軋轢を生んでいました。


中国が海外油田を相次ぎ確保、各地で反発も(2009-1105)
http://www.chosunonline.com/news/20091105000026
「オイルサンドでも深海でも構わない。独裁国家だからどうだというのか。石油とガスさえあればよい」
(中略)
 中国は「パッケージ戦略」でアフリカの資源国にアプローチしている。これらの国々に不足している社会間接資本を中国の労働力と装備で建設する見返りに、石油・ガスの開発権を取得するやり方だ。しかし、こうした中国の無差別的な海外エネルギー確保戦略は
 ライバル国や現地住民の反発を買っており、必ずしも順調ではない。
 中国がイランに輸出するガソリンが代表例だ。
 中国の石油企業は9月末からイランのガソリン輸入量の3分の1に相当する1日当たり3万−4万バレルの輸出を開始した。
 この動きは、燃料供給の遮断でイランの核開発を阻止しようという米国などの立場と摩擦を起こしている。
 今年8月にはアルジェリアの首都アルジェで、「中国人が職を奪った」と主張する市民の大規模デモが起きた。
(引用終了)


 札束で横っ面を殴りつける方法、ですか。そして其れは最悪の事態を招きました。


アルジェリアで襲撃事件 中国人社員が死亡
http://japanese.china.org.cn/life/txt/2010-06/12/content_20250059.htm
 北アフリカのアルジェリア東北部にあるブーイラで現地時間10日深夜、憲兵路上検査所への襲撃があり、少なくとも憲兵2人が死亡、20人が負傷した。
 新華社の記者が現地の中国大使館に確認したところ、近くを走行していた中国企業の社員が襲撃に遭遇し、命を落としたという。
 襲撃があったのは現地時間夜11時 30分頃。テロリストは爆薬を積んだトラックでブーイラの憲兵が配置されている路上検査所を襲撃した。
 中国企業の担当者によると、会社の材料を輸送していた車両は当時ちょうど同地域を通過中で、襲撃のあった検査所で検査の列の前から3番目に並んでいたという。爆発があった際、助手席に乗っていた中国人社員に破片弾が当たり、死亡した。
 事件後、現地の中国大使館はこれを高度に重視し、同企業に死亡した中国人社員の善後処理を滞りなく行うよう求めた。
(引用終了)


 アルジェリアでは“中国人と言うだけでテロリストの標的になっている”のが、現実です。
 理由として挙げられるのはまず、ウイグルに住むイスラム教徒への弾圧や民族浄化。
 そして次に挙げられるのは“中国の植民地化”です。

 あぁ別に武力で侵攻してどうのこうの、と言う話でありませんよ。上の記事にも書いてありますが、中国人(及び韓国人)の悪癖として、“移住先にコロニーを造る”と言うものがあります。
 例えるならば海外にある日本人街でしょうか。アレをもっと数十倍性質を悪くした感じです。

 まず中国政府が現地政府と契約します。中国が出資して石油なり精製施設などのプラントを建て運営するから、どうか許可して欲しい、と。
 当然現地政府は喜んで強化します。そう言う拠点が出来れば、建設や運営で現地の人間が雇われ、雇用が生まれるからです。

 しかし中国人は違います。雇用されるのは中国から移住してきた中国人、そして彼らの多くは出稼ぎのため現地に金を落とさず、母国へ仕送りをします。
(上の記事中にアルジェリア人の雇用を中国が奪っているの、と言うのはそう言う話です)
 そしてまた現地の住民を雇ったかと思えば、過酷な環境で使い潰す、と。


 此所からは私の推測となります。
 まず現時点で分かっている事実を並べましょう。

  • 日本人は人質にされず殺された
  • 中国人は4年前からアルジェリアのテロリストの報復対象となっている
  • 実際に中国人と言うだけでテロが起り、死者も出でいる
  • 中国人が現地の雇用を奪い、雇ったとしても劣悪な環境にしているため、暴動が発生している

 以上4点の事実を基に推測を立てれば、其れは、

『日本人が殺害されたのは、中国人だと間違われたから』

ではないでしょうか?実際、日揮で働いていたフィリピン人やアルジェリア人の方は、無傷で解放されています。
 アルジェリアで人一倍恨みを買っているフランス人が、(人質目的とはいえ)一応生かされているのに、どうして対して関わり合いのない日本人が、人質にもならず命を落とさねばならなかったのでしょうか。
 私の推測が正しければテロリストも、「中国人を人質にとっても、中国政府が交渉に応じるわけはない。また現地の人間からも嫌われている」と判断したと考えれば、割と無い話でないと思います。


 ……とまぁ簡単に書きましたが、別に私は中国が大好きでも其の道の専門家でもありません。同期の出世頭には商社系の人間も居ますが、むしろ氏から聞いた話は守秘義務の都合で外には出せませんし。
 以上の事実を調べるに当たっては、某匿名掲示板の過去記事を検索しただけで済みました。と言うか其れ以外には何も特別な事はしていません。
 其れで?日本のジャーナリストやら専門家の皆様方は、中国人がアルジェリアのテログループから敵認定され、市民からは暴動を起こされ、対中感情が最悪になって居るにも関わらず、其の事実を今回の事件と結びつけて話しましたか?
 其れともフランスのマリやアルジェリアを植民地支配していた(しかもドイツに進駐されていても、支配を続けていた)事を挙げ、一体テロが何故起ったのかを説明したとか?

 答えは、“何一つまともな分析が出来なかった”のではないでしょうか?

 安倍総理が外遊中だったために「どうして早く帰って来ないんだ!危機管理が足りていない!」等と、的外れの非難を繰り返し、終いには「安倍総理がアルジェリアへ働きかけないから日本人が殺されたんだ!」とコメンテーターに言わせていました。
(実際にはテロリストが突入した直後には、既にお亡くなりになっていたようですが)

 また日本のマスコミはアルジェリアに駐在員などは置かず、CNNとアルジャジーラの映像を垂れ流し、事件解決後まで寄り付かなかったのに、政府の情報収集能力が悪いと叫いていたのは滑稽でした。
(実際には一時的に渡航か禁じられていたのでしょうが、CNNクルーは地続きで現地へ入っていました)

 まぁ……結局其の程度なんですね。自分達は汚れずに汗をかかず、下請けや孫請けの制作会社へ仕事を丸投げ、もしくはフリージャーナリストから記事を買うだけのお仕事です。
 中国人がアルジェリアでやらかしている軋轢を書かず、フランスの植民地時代からの因縁を書かず、何を言うかと思えば「安倍総理は危機管理不足だ!」ですか。見当違いにも程があります。

 要は「安全な場所で安全な相手へ向かって“だけ”非難している」んですね。

 まぁ流石に中国人と間違われた件に関しては、私の憶測の域を出ません。ですからアルジェリアで中国人排他運動やテロが起っていても、今回のテロとは無関係である可能性もあります。
 しかし其れにした所で主犯はテロリストであり、また彼らの声明を聞くに一端を担ったのはフランスで間違いありません。マリにしろアルジェリアにせよ、独立解放戦線が台頭するまでは植民支配を続けていたのですから。

 ですが日本のマスコミは日本政府、と言うか自民党政権の非難ばかりが出て来ます。情けない話ですが、其の程度がマスコミの“器”なのでしょう。
 安全な国の安全な所でのうのうと暮らし、反撃しない相手を狙っては執拗に攻撃を加え、自らは進歩的文化人?とか、社会の公器?を自称する一方、フランス政府はおろか、テロリストへ対してもまともな批判を加えようとしない……酷いですね。

 貴方は彼らを信じますか?


※以下、後日追記
 2013年01月29日の朝日新聞・国際面では、『アルカイダの拡散!』等と称し、”如何に南アフリカにテロ組織が存在しないのか”を強調していました。
 記事中には私が書いたような中国人が率先して狙われて居るとか、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織の声明とか、そう言った事実を一切無視した内容でした。実に訳の分からない状況です。
 朝日新聞の記者が住んでいる世界と、私達の暮らしている世界が違う可能性もないではないのですが――其れにしたって、私のような一般人が少し調べれば中国人がテロの標的になっていることぐらい、直ぐに出て来たのですがね。
 ……まぁ”過去の記事すら引用出来ない程度の分析能力”なんでしょうね。

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